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「ふんふん。」
なんだか、ご機嫌に鼻歌を歌いながら歩く。片方の手に持った木の棒を元気よく振りながら。
「んー、そう言えば水がそろそろ無くなるハズ…。」
腰にぶら下がった水筒を手にとって蓋を開ける。逆さにして振ると、水の滴が3滴ほど地面に落ちた。
「ありゃあ、こりゃダメだ。」
滴が落ちて湿った砂はあっという間に乾燥した。
今日もこの世界の太陽は元気が良い。
「おっちゃん、水ちょうだい。」
屋台の店主に声をかけると、元気な返事が返ってきた。差し出されたゴツイ手の平に銅貨を数枚乗せる。
奥のほうから水筒に水を入れるトクトクという小気味良い音が聞こえてくる。
「今日も暑いね。」
独り言のつもりだったのだが、返事が返ってきた。
ここの店主は中々愛想が良い。贔屓にしてやろう、と他愛無い世間話をしながら考えた。
濡れた水筒が手渡される。
受け取って礼を言い、手に流れてきた水滴を舐めた。
「新しいラクダが欲しいな。」
ポツリとそう言って、また歩き出す。
頭の中に、この間まで一緒だったラクダとお別れしたシーンがパッと浮かぶ。
「バーちゃんだったからなぁ…。」
そっと肩に手をやった。少し顔をしかめる。
「イテテ…ったく、無理なら無理って言ってくれれば分かったのに…。」
ラクダは唐突に倒れたのだった。放り出されて地面に激突した。着地が悪く、肩が外れてしまった。
その後、道行く行商人に声をかけ、肩をはめて貰ったのだが、まだ痛む。
「おーぅ、良いラクダ。」
目に止まった店はどうやらラクダの売買の店らしい。その中の、色白のラクダと目が合った。別段急ぐわけでもなく、のんびりと近づき、そっと首筋を撫でる。
「おとなしいね。」
店主が出てきた。熱心に話すので耳を傾ける。
どうやらこのラクダは女の子らしい。
「睫長いもんね。」
ラクダがパチリと瞬きした。
値段を尋ねると店主は少し肩を竦めて答える。
まぁ、妥当な値段だろう。
「貰うよ。」
ポケットの中から金貨を3枚取り出して渡した。
「別にお釣りはいらないよ。」
店主は驚いたように目を丸くし、一瞬顔を歪ませた。もっと高い値段を言っておけばよかった、とでも思ったのだろう。
ラクダに鞍を乗せて、手綱を引っ張るとゆったりと出てくる。
「しばらく、一緒に歩こうか。」
ポンポンと首筋を叩いた。
ラクダと歩いていると、一軒の酒屋が見えてきた。
「今日はあそこにしようかな。」
微笑んでラクダを見上げたが、無視された。
初めはこんなものだろう。そのうち、懐いてくれるさ。
ラクダ小屋に新しい相棒を繋ぎ、店の中に入る。
少し立ち止まって中の様子を観察した。
「良いね、色んな人が居る。」
1人でテーブルに座るのも淋しいので、右端のカウンターに腰掛けた。砂漠の地には珍しいテーブルとカウンターがある酒屋だ。
店員がメニューを尋ねてくる。
「アイスティー、ある?」
相手は頷いてにっこり笑うと準備を始めた。
かわいい子だ。
運ばれてきたアイスティーを啜って、酒屋の中の音に耳をすませる。
家族の話。
オススメのお店。
最近のニュース。
「良いねぇ。」
小一時間ほどして日が傾きかけた頃、店を出た。チリン、と扉に取り付けられた小さなベルが鳴る。
ラクダを連れて再び歩く。そして、宿に戻る路地に出たとき、
少女が降って来た。
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