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師長の家(1)




 「ここが、空間師長の家…。」
 わりと、こじんまりしている。「家」というよりも「城」を想像していた啓は少し驚いた。
 ―――ふぅん。意外にも庶民的な家ね。こんな所に本当に師長が居るのかしらね。
 扉をノックすると、カチャリと鍵の開く音がした。返事が無いので、そのまま扉を開く。
 ピコピコと電子音がする。それと同じようにカチャカチャという音も聞こえた。
 「?」
 なんだろうこの音。……何か、懐かしい気がする。
 そろり、と足を踏み入れた。啓の後にクライドも続く。

 「うわー、やられたー!ガッカリだ!」

 奥から声が聞こえてきた。丁寧に自分の気持ちまで口に出している。
 「…もうちょっとだったのにな。よし、リトライ!ポチッとな!」
 クライドが首を傾げている。
 「なんだ?」
 「なんだろうね…。」
 啓は答えつつ、聞き覚えのある電子音を思い出そうと頭をひねった。そうしている内にまた、破裂音のような派手な音が聞こえてくる。隣のクライドがビクッと反応し、剣の柄に手をやった。
 「戦闘中か?」
 「わかんない…。」

 「くるっと回って一回転。避けます避けます!撃ちます撃ちます!」

 ―――実況中継だ。中で何が起きてるんだろう。
 避けるということは、相手が居るということだろうか。明らかに音は1人の物だ。
 啓達は奥へと進む。クライドが剣を抜いた。そして、音が漏れ出している部屋の扉を開いた。

 「うわっ!避けろ!よし、上手いぞ、オレ!見つけたぞぉ、ボス発見!」

 目の前の少年はテレビゲームをしていた。
 コントローラーをしっかりと握り、ゲームの中では宇宙飛行船のパイロットであるその少年はテレビの中の機体と同じように体を傾ける。何よりも、目が本気だった。青い瞳がぎらぎらと輝いている。
 「なんだ、コイツ…?何やってるんだ?」
 「これはね、」
 ―――なんでここでゲームなのよ。
 しかもいつのゲームよ。未だにカセット?懐かしい。しかも何そのコントローラー。お粗末すぎる。
 「……テレビゲームよ。」
 「てれびげーむ?ケイ、知ってるのか?」
 「うん。私の世界の物だから。」
 「へぇ。…にしても、ずいぶん集中してるな。」
 啓達の入室には気付いていないようである。気にしていないのかもしれない。
 「一段落着くまで、この辺に座って待とう。」
 啓の提案で2人はその場に腰をおろす。つい先程まではしんみりしたムードが漂っていた2人だが、目の前の少年は見事にそれを破壊した。
 特にすることも無かったので啓は疲れきった足を揉んでいた。
 ―――画面もあんまり綺麗じゃないな。
 ぼんやりとそんなことを思った。でも、私、久々にやってみたいかも。随分久しぶりだわ。
 首を振ってそんな誘惑を振り払う。
 しばらくすると、チャララララーン、という音と共に「COMPLETE!」の文字が画面に浮かび上がる。少年は満足そうにそれをしばらく見つめると、ほうと息を吐いた。
 「コンプリート!よし、次行くぞ!」
 「ちょっと待ってよ、次行く前に話聞いて。私達、空間師長に会いたいんだけど!」
 返事は無い。
 ―――なんなの、この子。
 啓が脱力した時だった。
 「よく来たな、宮島啓!オレが空間師長だ、おっとととーい、危ね!」
 いきなりだった。
 咄嗟に返事ができず、啓はまじまじと少年を見つめた。体を傾けて冷や汗を拭っている。
 「長旅で疲れているだろうが…くっ、さすがに難しいな。ここを越えれば…!避けろ!危ない!」
 「……。」
 空間師長だと主張する少年を見ながら啓は首を傾げた。
 ―――変な子だ。普通、ゲームやめて話すだろう。
 「伝えることが…わーわーわー!やめろって!集中狙い禁止!」
 「伝えること…?」
 「そうそう!あっ、クソ!燃料タンクがやられた!」
 啓は溜め息を吐いた。クライドからイライラの空気が流れ出ているのが分かる。
 「ちょっと最近騒動が…うわっ…ととと、あいつめ、ブラックホールに放り込むぞ…!」
 「騒動って、パズルで何かあったの?」
 悪いが、敬語を使わなければならないような相手ではないと思う。少年はブンブンと首を縦に振る。
 「ちょっヤバッ…今話しかけるなよ!良い所なんだ!」
 体を地面すれすれまで傾けて少年は叫んだ。
 「…あっ!」
 宇宙を飛び回り、敵船を打ち落としていた少年の船は突然正面に現れた一機のミサイルに打ち落とされた。
 「…お前達が話し掛けるからだぞ!」
 立ち上がって地団駄を踏んで悔しそうにしている。
 テレビ画面には【YOU ARE DEAD】の文字。
 「ゲームはやり直しできるんだから良いでしょ。それより、騒動って?」
 啓の言葉に少年の表情がガラリと変わる。

 「レヴィオスがやられた。」

 ゲームの音が無くなった部屋にその声は空しく響いた。



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